『この世界の片隅に』アニメ映画としても、戦争体験を記憶に留め続けるためにも優れた作品

 

タイトル この世界の片隅に
制作者 監督:片渕須直、原作:こうの史代、音楽:コトリ ンゴ、制作:MAPPA 声の出演:のん 細谷佳正 稲葉菜月 尾身美詞 小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 澁谷天外 他(konosekai.jp)
制作年 2016年
時間 126分
感想 (動画は制作元配信「すずさんのありがとう」です)
現代における若者、また、それ以上の年齢であっても、実際に戦争を体験していないのだから、戦争体験者に直接その経験を教えてもらうか、戦争体験者の体験を書物や映像にした作品に接するしかないのだと思う。
現在までに、そのような方向性では、出征兵士の手紙の内容から実際の戦争の酷薄さや不条理さを知ることができる書籍に『きけ わだつみのこえ』(岩波文庫)があり、また、実写映画においては、戦前と敗戦後で価値観や一兵士の境遇が180度変わってしまう『私は貝になりたい』(橋本忍監督)がある(第一次大戦当時のドイツと、場所・国は異なるが、『西部戦線異常なし』(レマルク原作、マイルストン監督)でも同様に戦争の不条理さや悲惨さが表現されている)。

そして、アニメ映画では、野坂昭如原作、 高畑勲監督の『火垂るの墓』において、戦争当時の子供の視点から、その悲惨さが表現されており、戦争未体験世代に警鐘が鳴らされてきたといえる。

それで、本作『この世界の片隅に』については、戦争体験世代の多くが「当時の空気や社会が忠実に表現されている」と太鼓判を押しているのだから、言うなれば、主人公(北條(浦野)すず)による、戦争体験(戦前・戦中・戦後しばらくの時期における体験)の告白なのだと捉えることができる。

そのような試みが、完成度の高いアニメーションの形で実現されることは、貴重なことであり、また、素晴らしいことだと感じる。

実際、私は映画館でこの作品を観て、アニメーション作品自体としての良さを感じたし、また、当時の社会を知るための戦争体験記として受け取ったとしても優れた内容だと感じた。

それは、中学校や高校において、視聴覚室で生徒に見せたならは有意義であるに違いない、勉強になるだろうと感じるくらいのものだ。

ところで、本作品については、「昔はよかった」的な一面的・独りよがりな表現に陥らず、封建的な家父長制の名残、そのことによる苦しみなど、当時は現代と比して窮屈な面があったことについても表現されており、その点でも優れていると感じる。

軍艦や戦闘機、爆撃機のような描写は登場するが、ミリタリー・オタクが喜ぶような過激な傾向に陥っておらず、事実を事実として表現しようとした制作姿勢を好ましく感じた。
第40回日本アカデミー賞・最優秀アニメーション作品賞、アヌシー国際アニメーション映画祭・長編部門審査員賞受賞作品

 

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